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​研究活動
有権者意識調査の進捗状況

本研究課題の中核をなす意識調査は、申請時に5年間で8回行う予定を超えて、研究開始年度からの3年間で、すでに14回(全国調査11回、自治体調査2回、国際比較調査1回)にわたって実施し、研究期間中に行われた3回の国政選挙もすべてカバーし、貴重な意識調査データを蓄積することができた。

本研究において得られた新たな知見、学術的なインパクト

(1)投票行動研究から民主主義研究への進化:多角的データの融合による研究

 従来の選挙研究が投票行動を非説明変数とし、意識調査データのみを用いて有権者意識の分析を行っていたのに対して、本研究では分析の視野を代議制民主主義の機能に拡大し、意識調査データだけでなく、選挙公約データや議会議事録データを結合して分析を行うことで、従来の選挙研究を代議制民主主義研究に進化させることに寄与した。まず、衆議院については当選した政治家が次回年衆院選までの間に国会で当選時の公約通りの活動をしているかどうかを検証するために、上記期間における全ての衆議院本会議及び 11 委員会の議事録を収集し、関連法案への投票ならびに質疑や答弁などの発言を選挙公約の内容分析で用いた項目に則して同様に内容分析した。さらに、衆議院議員一人一人について、当選時の選挙公約の内容分析の結果と当選後の衆議院本会議及び委員会における法案投票や発言の内容分析の結果を照合することで、両者の間の一致度を測定した。そして、「選挙公約と国会活動の間の一致度」と「次回衆院選の得票率」の間の関連を分析した。その結果、代議制民主主義の「民意負託機能」、「代議的機能」、「事後評価機能」がいずれも十分に満たされているとは言い難いことが明らかになった。しかし、その原因として、有権者が選挙の際に候補者が提示する公約に基づいて投票行動を決定しておらず、また政治家が公約を遵守したかどうかで次回選挙の投票行動を決定してもいないなど、有権者側にも少なからぬ問題があることが明らかになった。こうした研究を通して、従来の投票行動研究、議会研究、政党研究といった政治学において個別に行ってきた研究を代議制民主主義を軸として有機的に結びつけた。

(2)日米韓における代議制民主主義の分析を通した比較政治学:外装的比較から実態比較へ

 第46回及び第47回衆議院議員小選挙区選挙ならびに第23回参議院議員選挙区選挙の全候補者の選挙公報を政策領域に関するコーディングカテゴリーに基づいて分類し、それぞれの政策領域において、各候補者がその政策領域に関する事項を内容分析によりコーディングした。政策領域については「社会福祉・生活保護」、「保健衛生・医療」、「教育」、「労働」、など基本17項目に、選挙ごとの特定争点(たとえば「TPP」、「消費増税」、「議員定数削減」など)を加えた。選挙公報データは調査データと接合し、代議制民主主義の事前的側面に関する分析に用いた。さらに、申請時の国政選挙に加えて、自治体にも対象を拡大し、一定の要件を満たす都府県議会選挙立候補者の選挙公約も収集して内容分析によりコーディングしてデータ化した。

(3)日本の地方自治体レベルにおける代議制民主主義の分析

 代議制民主主義の問題の一因となる有権者意識が国政だけでなく自治体レベルでも重層的に形成されていることから、研究対象を申請時の国政レベルだけでなく自治体レベルにも拡大した。具体的には、都道府県議会議員選挙で選挙公約を実施していること、本会議及び委員会の議事録を公開していることなどの要件を満たす全都府県を対象(対象となる議員数は284名、対象条例数は135、対象発言数は10万件以上)に、当選時の選挙公約の内容と当選後の議会における条例への賛否との整合性を分析した。その結果、都府県議会議員は、与党的立場にあれば議員自身の選挙公約と一致していなくても首長条例を支持し、野党的立場にあれば選挙公約と同じ方向の条例であっても首長発議条例に反対することになるため、どちらの立場でも選挙公約と乖離した行動をとることが明らかになった。なお、これらの一致度が高くガバナンスが良いかどうかは、首長と議会多数派が同じ会派であるかどうかで異なっている。さらに、こうしたガバナンスが良く先進的な施策を講じている自治体に対するヒアリングを実施して自治体施策が行政パフォーマンス(例えば、子どもの幸福など)に及ぼす効果を測定した。また、「適切な組織機構改革」「現場職員の意欲を醸成させるアイディア」「市民との密な連携関係」に関する施策を講じている自治体では、政治信頼など有権者意識の相対的優位がみられることを明らかにした。

(4)政治意識の形成と変容の解明

 本研究課題では、40年以上継続する投票行動の全国的・時系列的調査研究の基盤を継承し、政治意識の形成と変容の解明も進めている。そうした観点からの分析により得られた知見は以下のとおりである。(1)リスク回避的な有権者ほど2013 年参院選において比例代表と選挙区で分割投票を行う傾向が強く、リスク受容的な有権者ほど、比例代表、選挙区の両方で自民党に投票する傾向が強かった。この分析を通じて、有権者のリスク回避・受容が投票行動と密接に関連することを明らかにした。(2)2012年衆院選において、現内閣に対する業績評価が一致投票をするか、分割投票をするかの選択に有意な影響を及ぼしていた。与党支持だが現内閣の業績は評価しない、あるいは与党支持者ではないが現内閣の業績を評価する有権者にとって、並立制が有益な選択肢を与えていることを明らかにした。 (3)ネット選挙運動の解禁は、有権者の政治意識・投票行動に大きな影響を与えると期待された。しかし2013年参院選調査を分析した結果、ネット選挙運動には、もともと政治関心が高く、支持政党を持ち、公示前から投票先を決定しているような有権者ほど接触し、かつ有効性を認識している傾向が明らかになった。また、ネット選挙運動への接触は、争点態度や投票先の変更には有意な影響を与えていないことも明らかした。(4)投票参加に関する分析では、まず投票参加指向自体が弱り、動員についても低下傾向が見られた。投票参加指向の低下について分析していくと、政治的有効性感覚については大きな変化が見られないが政治的アノミーや判断材料に関する信頼性の低下、政党、選挙、国会が有権者の選好を国政に反映するという機能に対する有権者の評価の低下、政党・政治家といった民主的委任のエイジェントに対する信頼性の低下が見られた。
 これらの研究を通して、本研究課題採択前の平成23年度に比べて学会発表及び論文・書籍の合計が次第に増えている。具体的には、平成23年度に比べて平成26年度は学会発表が208%と倍増し、論文も118%と2割増え、研究業績合計も142%と4割増えている。

(5)マルチメソッド比較による新しい調査方法の確立

 従来、意識調査の方法として面接調査が主流となっていた。しかし、回収率の低下に伴うバイアスと調査経費の高騰、調査日数がかかるため調査期間中の変化に対応できないこと、急な衆議院の解散総選挙など突発的な状況に対応できないことなどが問題となっていた。このため、面接調査に替わる調査方法が求められており、本研究では面接調査、郵送調査、インターネット調査の3手法による調査結果の差異とその原因を分析することで、より良い調査方法を提案することにした。なお、電話調査は本研究のような100問を超える設問に対応することができないため、比較対象から除外した。具体的には、政党支持や政治満足度の程度の調査方法別の値を比較するとともに、性別、年齢、都市規模といった社会属性でセグメントを分けた上で、なお政治意識に調査方法別のバイアスがあるのかを回帰分析により追試した。その結果、政治意識・社会属性の偏りについて、面接調査と比べてバイアスが最も大きいのが郵送調査であったのに対して、インターネット調査の政治意識のバイアスはより小さく、政治満足がやや低い傾向がみられるのみであった。なお、自己選択(self-selection)バイアスを検証するために、社会属性のセグメント内での政治意識のバイアスを推定したところ、面接調査と比較して郵送調査で偏りが大きく、インターネット調査では偏りが限定的であることも確認された。このことから、インターネット調査における社会属性の偏りを排除するために、地域、都市規模、年代、性別による厳格な多重クォータをかけて行うことで、面接調査と有意な差異が生じないデータを収集できることが明らかになった。選挙研究に限らず、様々な分野における意識調査の経費削減と迅速な対応を可能にする調査方法を提案することができた。

(6)政治関連データベースの構築

 本研究では、これまで実施してきた意識調査ならびに研究で作成した選挙公約データ、国会議事録データ、市区町村別選挙結果データなどをXML化してインストールした上で、七カ国語(日本語、英語、中国語、韓国語、ロシア語、インドネシア語、マレー語)で検索できるシステムにより国内外の研究者に利用できるよう便宜を図っている。このことを通して、海外の研究機関から申し入れを受け、共同研究や国際ネットワークを構築した。

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